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◇失態 第51話

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-04-09 03:55:09

51

余りの己の失態振りに頭を抱えんばかりにオロオロしたのだが、泥酔して

いたことと……世話になっていて酷い言い草だとは思うが、以前より奈羅

から秋波を感じてはいたものの、自分が好意を受け取れるゾーンには少しも

受け入れることのできない相手であり、あとのことも考えて綺羅々は下手に

出るのは得策ではないと瞬時に判断した。

「そっか、ありがと。悪かったね、手間を取らせて。

今日はどうしても外せない用事があるのでこのまま失礼するよ」

「えっ、朝ご飯だけでも一緒に食べようよ」

「えーと、ごめんよ。ほんとにもう時間がなくて……」

そう言うや否や、綺羅々は大急ぎで部屋を出た。

勿論ちゃんと会計窓口で支払いも済ませて。

昨夜同じ部屋に泊まったふたりの間に性的な関わりなど当然なかったかの

ような言動で最初から対応したのが功を奏したのか、奈羅が一言もその辺の

ところを突いてこなかったので、綺羅々は胸を撫で下ろした。

綺羅々が唯一気になったのは薔薇のことだった。

薔薇とはずっと一緒だったはずなのに一体全体どーしてこうなった?

酔っ払いがうっとおしくなって、自分を置いて先に店を出て行ったのだろうか?

自宅に戻り落ち着いたら、薔薇に連絡してみよう、そんなことを考えながら、

急ぎ足で綺羅々は帰路についた。

そして自宅に着くとすぐに薔薇にメッセージを入れた。

『薔薇、昨日は君と話せて楽しかった。

明日もしもよければ、また会いたいんだけど、何か予定入ってる?』

こんなふうに、昨日どの辺りから自分が薔薇と一緒ではなくなったのか、と

いう本当に訊いてみたいことはオクビにも出さなかったのである。

それにしても、うれしくて浮かれたからと言って泥酔してしまうとは……

情けなさ過ぎてクッションに顔を埋めて悶絶する綺羅々だった。
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    634日後、根本さんからピザパーティーに誘われることに。 こんなに早く連絡をもらえるとは思ってなくて、少し動揺した。彼はもしかすると、いやもしかじゃなくておそらく私のことを独身者だと 思ってる。彼の家にお呼ばれした日にそれとなく自分が既婚者であることを 伝えるべきよね。でも、案外彼も既婚者で、お呼ばれした日に奥さんや子供を紹介される 可能性あるかも。彼はどういう気持ちからこんなに頻繁に誘ってくれるのだろう。 私が引っ越してきたばかりで孤立化するのを防ぐため?  気の毒に思って? 最初はそう受け取っていた。けれど、余りにも短期間のうちに急接近のようにしか見えない彼の振る 舞いに、このまま単純に浮かれて誘いに乗じていいものだろうかと思い 始めている自分がいる。でも考えてみると、異性として魅力的な男性《ひと》だというのはもちろん なんだけど、そういう枠を取っ払ったとしても、自ら相手の好意を突っぱねて 距離を置く必要があるだろうか、そう思えるのは彼が霊能者だからだ。 海千山千と霊能者にもいろいろいるが、彼は数少ない本物で、私は 自分の身の上にあったことを通してそれを知っている。いろいろ思うところはあっても、私の中でこの先の彼との付き合いの 方向性は、決まっていた。そして、彼の話をもう少し聞いてみたいという気持ちが徐々に大きく 膨らんでいくのを止められなかった。

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇過去世 第62話

    62ウォーキングのイベント帰りのレストランで美鈴は根本が東北出身の霊能者であることを知らされ、自分の身近であった信じられないような金星人の綺羅との接触があったことなどを当てられてしまう。金星からやって来たという綺羅々との出会いだけでもすごいことなのに、何ですと……根本さんはいろいろと人のことが視えるのだとか。自分とは一生縁のなさそうな人たちに2人も遭遇する自分って一体……。穿った見方考え方をするならば、え~ともしかして、私も金星にいたことがあり どこかの過去世でイタコだったことがあるとか? ふっ、いくら何でも穿ち過ぎだよね。レストランでの食事の後、私は自宅まで車で送ってもらった。私が車から降りると彼も一緒に外に出て来て、私に声を掛けてくれた。「身体の方は大丈夫?」「心地よい疲れなので入浴したらそのまま今夜はぐっすりと眠れそうです。今日のイベント、誘っていただいて良かったです。誰にも話せなかったことも話せましたし」「そりゃあ良かった。今日はお疲れさまでした。また、連絡します」「はい。根本さんもお疲れさまです。送っていただいてありがとうございました」私は数奇屋門先で彼の車が小さくなるまで見送り、それから庭につながる敷地に足を踏み入れた。今日は午前中から移動で車に乗り、独りではなく誰かと一緒に食事をし、誰かと一緒に歩いて宇宙人を探し、帰りも誰かと一緒にまたまた食事をして……独りじゃなくて誰かと一緒に自宅まで帰って来た。こちらに引っ越すと決めた日には、この先ずっと1人で暮らしていくのだと気負いを持ってこの家に住み始めたのに、根本さんのお陰でずーっとずっーと独りというわけでもなく、楽しい日々を過ごせている。また連絡くれるって。たった1人とだけど、繋がっていられる人のいる暮らしは、ほっとする。そこには、心の中にある寂しさを補ってくれる力がある。とにかく、お風呂に入ってまったりしよう。私はその夜、久しぶりに綺羅々のことを思った。彼を呼べば……そして彼にどうして私の前に現れたのかを訊けば何か分かるのだろうか。そんなことを考えているうちに私は夢の中へと誘《いざな》われていった。

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